神戸大学大学院人間発達環境学研究科 森岡正芳研究室

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ナラティヴアプローチとは?人間理解のもう一つの方法

 生活の場のさまざまな局面で私たちは物語を育んでいます。人の行動を理由づけ説明するのに、私たちはそれと意識せずに物語を運用しています。心のなかでも私たちはたえず物語を作っています。何かの出来事を思い出すときや、さらにそれを誰かに語るときは、いくつかの場面を組み合わせ、何かのつながりをもったものとして筋書きをつけていきます。日々出会ういろいろなことをだれかに話すときに、相手にわかるようおもしろくするでしょう。「オープンキャンパスでこの前神戸に行ったの。久しぶりだったわ。そう。小学校のとき。遠足で六甲山に登ったときのことを思い出したわ。」こんなふうに二つの出来事をつないで筋が生まれ、それをだれかに伝えるとき、自然に物語が生まれます。必ず語り手の強調したい点、聴き手に伝えたい出来事が選ばれ物語が作られます。同じオープンキャンパスに行ったとしても語り手の視点や、聴き手とのあいだで共有される文脈が変われば、異なった出来事が選ばれ、強調点も変わります。いいかえると一つの話題にも複数の物語のヴァージョンがありうるのです。

 このような日常の言葉のはたらきをカウンセリングや心理療法でも使っています。ここで大切なのは、話を自分のことのように楽しみ、聞いてくれるだれかがそばにいることです。それによって物語はさらに生き生きとしてきます。聞き手も相手の物語づくりに参加しているのです。

 変えようのない事実や、関係そのものも、語りのあり方で意味づけが変わっていくという特徴を積極的にセラピーに用いていこうという立場が90年代以降、セラピーの各学派でほぼ同時的に提唱されました。トラウマ体験や抑うつのサポートに効果を発揮する実践が報告されています。日本語では語りと物語を区別します。行為としての語りに対して、物語はその内容をさします。narrativeという英語は、物語の内容と形式、語るという言語行為の両方を含みます。ナラティヴは具体的な出来事、事象と事象の間をつなぎ筋道を立てる言語形式で、その行為を通じて意味を生むものです。

 ナラティヴ・アプローチはつねに人の生きていることの個別具体性に焦点があたっています。生きている人を内側から描くというもう一つの人間理解へと挑戦するものです。私たちは、テレビのニュースを見るような事実の世界とは別の、出来事を自分の体験として筋立てる物語の世界も同時に生きています。たとえば親が果たせなかった物語を子に託すことがよくあります。子はその物語を知らぬうちに生きることになります。このような家族の物語はセラピーでよく耳にします。人の生は他者の期待や欲望が色濃く反映しています。ナラティヴの視点を導入することで、そのような他者の欲望に色づけられた人生を一つの「物語」として再解釈する力を得ることができるのです。

 「もし神戸大学に入ったら、人間に関わるいろんな勉強をして、何か人を育てサポートする仕事につきたいんだ。」このように私たちは将来の夢や可能性を思い描くとき、「もしも」の世界にしばし浸り、遊ぶことができます。そのとき物語の形式が使いやすいのです。物語は仮定世界、可能世界を積極的に描きます。さあその夢が実現した今、あなたはどのような未来を作っていくのでしょうか。

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